澤村豊医師(脳外科医)のグリオーマ(悪性脳腫瘍)治療に対する主張への疑問

【追記 2015/06/08】末尾に追記しました

先日の記事を書いている中で、澤村豊先生という著名な脳神経外科医のホームページを久しぶりに拝見する機会がありました。
脳外科分野、特に小児脳腫瘍の分野ではかなりの実績をお持ちの先生です。患者さんからの評判も良く、脳神経外科の名医とも呼ばれているようです。経歴を拝見すると、以前は北海道大学に勤務されており、現在は札幌で、さわむら脳神経クリニックという病院を開業されていらっしゃるようです。
その澤村豊先生が、ご自身のホームページで、グリオーマ治療(神経膠腫)についてこのようなことを書かれています。

注意! ネットや雑誌の宣伝に惑わされてはいけないこと

以下のものは科学的に有効性が証明されていないものです。
学会などで発表されて最新の治療法のように宣伝されていますが,実際のところは,あってもなくても長期生存割合にはほとんど影響しないのです。信頼するに足る科学的な実績はありませんし,患者さんを引きつけるための宣伝が多いです。

そしてその筆頭に

ナビゲーション,術中MRI,覚醒下手術

が挙げられています。これは明らかに東京女子医科大学のことを指しているものと思われます。女子医大のグリオーマ治療のホームページをご覧になった方は、これらの治療法が全てそこで説明されていることにお気づきになると思います。
この澤村先生の文章を見て大変疑問に思いました。
先日下記の記事にも書きましたが、女子医大のホームページには、具体的な治療成績のデータや関連論文がたくさん出てきます。また、下記の私の記事中で補足していますが、女子医大で治療した場合のグリオーマの5年生存率は、他の病院の2倍から3倍にも上るものです(グレード3の場合)。
▼東京女子医科大学 脳神経外科のグリオーマ(神経膠腫)治療成績(生存率)が更新されました|オーシャンブリッジ高山のブログ
女子医大のホームページでは、以下のロジックが具体的なデータと関連論文ともに示されています。

1. グリオーマ治療ではより高い腫瘍摘出率が予後に貢献することが世界中から報告され、より高い摘出率をめざす方針が標準的に。

2. 術中MRIとナビゲーション等により、腫瘍の取り残しが少なくなり、腫瘍自体を最大限に摘出することが可能に。結果として画像上の腫瘍の平均摘出率は90.6%(中央値96.7%)に。

3. 結果としてグレード2は95%、グレード3は72%と高い5年生存率を実現。(他の病院との生存率の比較はこちら

こうした具体的な治療成績のデータや論文まで公表されている治療を、澤村先生は「科学的に有効性が証明されていない」「あってもなくても長期生存割合にはほとんど影響しない」、「信頼するに足る科学的な実績はありません」、さらには「患者さんを引きつけるための宣伝が多いです」と完全に否定されています。
でも、この女子医大が発表しているデータや論文では不十分なのでしょうか。私は一患者に過ぎず、医師ではありませんので、どの程度のデータや論文があれば「科学的に有効性が証明された」ことになるのかよく分かりませんが、一患者の視点から見ると、あのページのデータだけで十分に「科学的に有効」だと感じますし、「信頼するに足る科学的な実績がある」と思えます。
少なくとも、私が記事中で補足した、女子医大と他の病院の5年生存率の比較を見れば、「あってもなくても長期生存割合にはほとんど影響しない」という澤村先生の主張は完全に間違っているのではないかと思います。まさにこうして、グリオーマの手術件数が国内トップである女子医大の治療法を、自身のホームページ上で否定すること自体が、澤村先生ご自身にとって「患者さんを引きつけるための宣伝」になっているように思えてなりません。そういう意図でないことを願いますが・・・。
女子医大のホームページには以下の記述があります。

 従来の手術は外科医の経験と技術によって判断施行されていました。我々は手術の成功確率を上げるために、客観的で再現性のある情報に基づいた手術−情報誘導手術−を提唱してきました。

つまり、ある意味では女子医大の取り組みは、経験と技術で今の立場を築いたベテラン脳外科医の存在を危うくする取り組みとも言えます。テクノロジーの活用により、経験の少ない脳外科医でも、ベテランと同じレベルの手術が行えるようになる、ということを目指しているからです。
だからこそ学会では反発も強く、常にそれにデータを示して反論してきた、と女子医大の村垣善浩教授は以前話してくれました。でも、テクノロジーを駆使して、より多くの脳外科医がレベルの高い手術をできるようになること、そして治療成績を上げることが、患者さんのためになる、との信念で闘っておられます。
私自身、澤村先生のおっしゃる「科学的に有効性の示されていない」術中MRIやナビゲーションを使った手術を2011年7月に受け、その後全く再発の兆候もなく日常生活を送っています。後遺症として視野左下4分の1に視覚障害は残りましたが、医師との術前の手術方針に関する議論と合意の上ですので全く後悔はありません。あと1年3ヶ月で術後5年が経過します。一般的なグリオーマグレード3の5年生存率は25%、女子医大での5年生存率は72%です。一般的な生存率のデータを元に考えると、私はもうとっくに死んでいてもおかしくありません。女子医大での治療があったから今があり、将来があります。
私は自分のグリオーマ白血病・悪性リンパ腫の経験を元に、一患者の視点で、闘病記や、病院、病気に関する情報などをブログで発信しています。お陰さまで読者さんも増え、毎月十数万のページビューがあります。ですから無責任なことや客観的事実に合わないことは書かないように気をつけています。
とはいえ、書いてあることはあくまで一患者の経験や視点に基づくものですので、ここに書いてあることが全ての同病の患者さんに当てはまるとは言えません。
それでも一患者の経験をできるだけ具体的に詳細に記録し発信することには意味があるのではと考えて、日々ブログを書いています。
そういう闘病ブロガーとしての立場から見て、医師である澤村豊先生のホームページでの主張は、女子医大が発信している情報と突き合わせると、ちょっと信ぴょう性というか裏付けに欠けるのではないか、と感じました。
ネット上には様々な情報があふれています。その玉石混交の中からどの情報を選び取り信じるかは、読者の側に委ねられます。私のブログが、多くの読者さんにとって、信じるに値するブログであればうれしいです。
【追記 2015/04/06】
本記事に関し、下記の関連記事を書きました。

▼澤村豊医師(脳外科医)への反論(グリオーマ治療)|オーシャンブリッジ高山のブログ
【追記 2015/06/08】
澤村豊医師の患者さんから本記事に批判的なコメントをいただくことが少なくありませんので、念のため、誤解のないように追記します。
私は澤村先生の実績やご経験を否定しているわけでは全くありません。澤村先生の治療を受けて命を救われた患者さんが数多くいらっしゃることも理解していますし、その点で、澤村先生はすばらしい脳外科医であり、尊敬に値する先生だと考えています。
ただ一点だけ、澤村先生が東京女子医科大学病院 脳神経外科のグリオーマ治療を実質的に名指しで、しかも偏ったあるいは間違った理解に基づき、ホームページ上で全面的に否定していることのみを問題だと考えています。
それは世の中の多くのグリオーマ患者さんに対してグリオーマ治療について誤った印象を与え、治癒に向けた希望を奪い、その結果、世の中の不利益となるものと信じています。
この一点を除いては、澤村先生は尊敬すべき脳外科医だと考えています。澤村先生の治療を受けられた患者さんが今後も健康に過ごされること、そして澤村先生の手により今後も多くの患者さんの命が救われることを、心より願っています。

★闘病記ブログランキングに参加しています。下の病名ボタンをクリックしてくださると、ランキングが上昇し、より多くのがん患者さんに僕の闘病記が届きます。よろしければクリックしてくださるとうれしく思います。4回のがんをがんを乗り越えた経験が、一人でも多くの患者さんに届きますように…

にほんブログ村 病気ブログ 白血病へ  にほんブログ村 病気ブログ 悪性リンパ腫へ  にほんブログ村 病気ブログ 脳腫瘍へ 

「澤村豊医師(脳外科医)のグリオーマ(悪性脳腫瘍)治療に対する主張への疑問」への8件のフィードバック

  1. CLL患者です。高山さんのブログは疑う余地はありません。高山さんの貴重な情報によって多くの脳腫瘍のひとの命が救われたとおもいます。

  2. 術後難治性疼痛に苦しんでいます。
    昨年10月末、脊椎管狭窄症で手術し、術後痛みが5倍になり、精神安定剤ドグマチールやリリカ、リボルトールを処方され車いす状態・ショックと薬の副作用なのか眠くて寝込んでおりました。現在、JR病院の痛みセンターで仙骨への神経ブロックと低周波鍼治療を受けて10回になりますが効果はあまりありません。NTT病院で高周波治療を受けたようですが、その後パルス高周波もされたのでしょうか?今は痛みは改善されたのでしょうか?

  3. 渋谷さん、コメントありがとうございます。
    私は帯状疱疹後神経痛の痛み軽減のため、NTT東日本関東病院ペインクリニックで、神経根ブロック注射と、神経根サーモ治療を受けましたが、あまり効果がなかったため、その後予定していた神経根パルス治療は受けませんでした。最初から先生には、帯状疱疹後神経痛になってから時間が経ちすぎていて効果はないかも、と言われていたのですが、その通りでした。
    現在はNTT関東病院でリリカ、リボトリール、サインバルタを、そして虎の門病院でオキノーム(医療用麻薬)を処方してもらいつつ、鍼灸治療を受けています。これが自分には一番効くようで、少しずつ症状が改善してきているようにおもいます。また、抗がん剤の副作用による足裏の痺れも改善してきています。自分の場合、痛みの軽減には鍼灸が一番合っていたようです。
    渋谷さんも少しでも痛みが改善されるよう願っております。

  4. 早速ありがとうございます。
    わたしは今、JR病院で筑波大学式低周波の鍼灸をうけていますが効果はあまりありません。
    高山さんは東洋医学的経穴、経絡の鍼灸でしょうか?よろしければ受診の鍼灸院をおしえてください。

  5. 激しく同意いたします。
    多忙を極める大学病院の脳外科医でありながら 病院にここまで設備を整えさせた熱意と正しさと説得力。 手術を受けた身なので偏ってしまうのですが自分がしてもらった手術に患者であるワタシが自信を持っている という奇妙な事になっています。数値を見てうれしかったですし。
    脳にしみこむように広がるグリオーマを1度の開頭で完全に取り去るのに
    MRIで見ながらやる以外に確実にやる方法があるとも思えません。
    そのうえ外来まで執刀医がこなし 生存率のあまりの高さの為 患者が減らなくて外来は大賑わいです。医師への負担を患者が心配するほどです。

  6. 三浦さん、コメントありがとうございます!
    同じく女子医大でグリオーマ摘出手術を受けた患者としてうれしいです!
    「医師への負担を患者が心配するほど」というのは本当に同感です。
    常に患者のためにがんばっている女子医大の先生たちには本当に頭が下がりますよね。

コメントは受け付けていません。