「患者が一番つらい」は本当か?/前回の記事に関する妻からの回答

先日書いた下記の結婚記念日の記事の中で、
▼僕が20回目の結婚記念日に妻に送ったメッセージと、一つの疑問|オーシャンブリッジ高山のブログ
下記のようなことを書きました。

本当に山あり谷ありの20年でした。特にここ数年は、度重なる僕の闘病で、妻にとっては苦労ばかりだったと思います。

もし仮に、実際に起きる波乱万丈なできごとを結婚前に知っていたら、結婚してくれていただろうか、と思うことがあります。この疑問については、今晩、妻に聞いてみようかなと思います。その答えは、またこのブログでご報告したいと思います(ただし回答内容によります 笑)

妻がくれたメッセージカード


この記事を書いた後に、妻にこの疑問に対する回答を聞いたところ、

家族三人揃った場で話したいから。

ということで、週末に家族三人で食事に行ったときに、メッセージカードに回答をしたためて渡してくれました。
妻からの回答をもらったディナー
そのメッセージカードにはこうありました。

答えはもちろんyesです。
この人は私が生きていくのに不可欠だと出会ってすぐに感じました。
その思いは今も変わっていません。
これからもよろしくお願いします。

心の底から、ありがたい、と思いました。あれだけの大変な苦労をかけたのに、こんな風に思ってくれているとは…。本当に、ありがたい、という言葉しか浮かびません。
特に3回のがん闘病での苦労は相当なものだったと思います。
・摘出率によって命の長さが決まり、視覚障害が残った脳腫瘍の手術
・半年以上に渡る長期入院での、激しい副作用を伴う強い抗がん剤治療(急性リンパ性白血病
・2〜3割もある治療関連死のリスクや、治療後もGVHD(拒絶反応)が年単位で続く、さい帯血移植(造血幹細胞移植、骨髄移植)(急性骨髄性白血病
といった、がん治療の中でも比較的重く長く厳しい治療を、3回にわたって支えるという、計り知れない苦労は、僕と結婚していなければ、経験しなくて済んだはずです。
今は日本人の二人に一人ががんになる時代ですので、長い人生の晩年になれば、自分や配偶者ががんになる確率は低くはありません。でも、40代で、がん治療の中でも厳しい部類に入る闘病を、3回も経験することは、そうはありません。
がん患者の妻としての肉体的な苦労(日々のお見舞い、一人での子育て、臨床心理士としての仕事、研究論文執筆等)はもちろん、僕の病状や予後(治る見込み)の心配、今後の生活への不安などの精神的な負担は、患者である僕には計り知れません。
妻からの回答をもらったディナー
病気になってから、よく周りの人から、またときには妻からも、

「でも一番大変なのは患者本人だから」

と言われることがあります。僕はこれを言われるたびに、妻のことを思って、

「そんなことはない」

と思っていました。
もちろん肉体的に病気や苦痛と闘っているのは僕です。肉体的に一番つらいのは僕です。
だけど、精神的につらいのは家族も一緒です。家族が抱える、自分の夫が、あるいは自分のパパが死んでしまうかもしれない恐怖は、他人には想像もできないほど巨大なものだと思います。もちろん僕も、自分が死ぬかもしれない恐怖や、辛い治療に対する不安といった精神的な苦痛を抱えています。
でも、家族が味わった精神的な苦痛と、僕が味わった精神的な苦痛を比較することはできません。妻と娘の苦しみも、僕の苦しみも、本人それぞれにとってはこれまでに感じたことがないほど絶対的に大きいものです。それらを相対化して比較することはできませんし、比較することに意味はありません。だから「一番大変なのは患者本人」とは言い切れないと思うのです。
僕が最初のがん(脳腫瘍)になったときに思ったことがあります。

がんになったのが妻でも娘でもなく、自分でよかった。

もし大切な家族ががんになったら、自分は精神的に耐えられないかもしれない、と思ったのです。大切な家族が病に苦しむのを見ていることができない、と思ったのです。
自分ががんになったのであれば、身体の苦痛は自分が我慢すればいいことです。自分で治療を乗り越えていくしかない、とある意味割り切れます。
そして、自分だったら、どうしても治さなければならない理由、つまり人生の目標である「娘の二十歳の誕生日に、娘と家内と三人でおいしいお酒で乾杯する」に向かって、がんという現実を受け入れて、医師と納得いくまで話し合って、自分自身が主体的に治療に関わっていけば、必ず治せるはずだ、という確信に近い信念もありました。(僕の著書「治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ」のメッセージでもあります)
でも、もし家族が病気になり、苦しんでいるのを目の当たりにしたとき、治してあげることも、苦痛を和らげてあげることも、何もできない自分は、悲しさ、辛さ、無力感から、精神的につぶれてしまうかもしれないと思いました。父と妹のがん闘病を、亡くなるそのときまで、間近で見てきた経験も関係しているかもしれません。
妻からの回答をもらったディナー
そんな、僕自身が耐えられないと思っている「がん患者を家族として支える」という苦労を、1度ならず3度も経験して、それ以外にも、僕の起業や会社経営などでいろいろな心配をかけたのに、妻は、もしそういう苦労をすることが結婚前に分かっていても、僕と結婚した、と言ってくれました。さらに、自分が生きていくのに、僕は不可欠だ、とも言ってくれました。
でも、それは逆です。
僕が3回のがん闘病を乗り越えてこられたのは、妻と娘、二人の家族のお陰です。妻と娘がいなかったら、これまでに3回死んでいてもおかしくありません。冗談ではありません。事実です。著書にも書いた、海外出張時に空港で倒れたときの娘の入院に関するエピソードや、虎の門病院の谷口先生を見つけてくれた妻のエピソードなどが、それを裏付けています。そして入院中の二人からのサポート。辛いとき、苦しいときに、「絶対に退院して家に帰って、また家族と暮らすんだ」と思いながら見つめた家族写真と、娘の写真。
生きていく上で家族が不可欠なのは、僕の方なのです。
今回の急性骨髄性白血病も、これまでの脳腫瘍(グリオーマ)、急性リンパ性白血病(リンパ芽球性リンパ腫)と同じように、完治したと言える日がくることを、そしてその日を家族三人でお祝いできることを、楽しみにしています。

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