株式会社オーシャンブリッジ ファウンダー
高山 知朗 (たかやま のりあき)
2019年02月16日
先日の池江璃花子選手の白血病のニュースの影響で、白血病とその治療法である骨髄移植に対する関心が高まっています。
▼池江が白血病 骨髄バンク反響 | 2019/2/13(水) 10:59 - Yahoo!ニュース
その骨髄移植と比べると、もう一つの移植治療である「さい帯血移植(臍帯血移植)」は、あまり知られていないように思います。
ということで、さい帯血移植で命を救われた白血病患者の一人として、骨髄移植とさい帯血移植について、自分の経験も交えてまとめてみたいと思います。
骨髄移植は、白血病の治療法である「造血幹細胞移植」の一つです。血液中にがん細胞が増殖する白血病は、他の臓器のがんに比べて抗がん剤が効きやすいのですが、一方で、がん細胞を完全に死滅させることは難しい場合があります。「がん細胞を減らせるけれどもゼロにはできない」ということです。ゼロにできないと再発のリスクが高くなります。
そうした場合に、血液を作るもととなる「造血幹細胞」を健康なドナーから移植して置き換えることで、血液中に残っているしぶとい白血病細胞を根絶するのが、造血幹細胞移植の目的です。
その造血幹細胞移植には、骨髄移植だけでなく、さい帯血移植(臍帯血移植)」もあります。
骨髄移植は、患者の血液の白血球の型(HLA型)に適合したドナーを骨髄バンクから探し、見つかったドナーから骨髄を採取し、患者に点滴(輸注)して移植する治療です(血縁者にドナーが見つかった場合はその血縁ドナーからの移植が第一選択となります)。
移植の前に、ドナーには入院してもらう必要があります。手術室で全身麻酔して骨髄を採取するためです。
骨髄バンクでドナーが見つかっても、ドナーとのスケジュール調整なども必要なため、実際に移植できるまでには数ヶ月の時間を要するとされています。
一方、さい帯血移植(臍帯血移植)は、赤ちゃんが生まれたときのへその緒に含まれる造血幹細胞を患者に移植します。
さい帯血は、さい帯血バンクと提携している産院で赤ちゃんが生まれた後に、へその緒から採取され、凍結されて、さい帯血バンクで保管されています。それを解凍して患者に注射(輸注)して移植します。
僕自身、3回目のがんであり、2回目の白血病だった、2年前の「急性骨髄性白血病」のときに、さい帯血移植を受けました。
(2017年4月14日に僕の体にさい帯血を点滴のラインから注射(輸注)する湯浅先生)
骨髄移植と比べると、さい帯血移植には以下のようなメリットがあります。
●ドナーへの負担がほぼゼロであること(本来は処分されていた分娩後のへその緒から採取するため)。
●移植するまでに必要な期間が4週間程度と短いこと(さい帯血バンクですでに冷凍保管されているさい帯血を使用するためドナーとの調整等が不要)。
●白血球のHLA型が完全に一致しなくても移植できるため、必要とするほぼ全ての患者に適合するさい帯血が見つかること。
●移植後のGVHDが比較的軽いこと。
このように、移植までに急を要する患者さんの場合や、骨髄バンクでドナーが見つからなかった患者さんは、さい帯血移植をすることになります。ちなみに僕はまさにその二つの条件に当てはまっていました。
一方で骨髄移植に対するさい帯血移植のデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
●移植したさい帯血が生着する(新しい血液を作り出す)までの期間が骨髄移植より長いこと(3〜4週間)。その期間は感染症のリスクが高まる(命に関わる場合も)。
●生着不全を起こす率が骨髄移植より高いこと。
●採取する量に限りがあるため、体の大きな患者さんだと量が足りずに移植できない場合があること。
上記のように、骨髄移植に比べ、10年ほど歴史が浅いさい帯血移植には、生着率や、生着までの期間の感染リスクなどの課題がありました。
しかし、ここ最近では、さい帯血移植の治療成績は、骨髄移植と遜色がないところまで来ているようです。
僕自身がさい帯血移植を受ける際、僕の担当医の虎の門病院 血液内科の湯浅先生が丁寧にさい帯血移植の説明をしてくださったのですが、虎の門病院では生着率はすでに100パーセントに迫っているとのこと。それ以外の感染管理や合併症対策などの点でもさい帯血移植は治療技術が向上し、治療成績は向上しているようです。
このように、骨髄移植と異なり、100%に近い患者さんに適合するものが見つかり、かつ、治療成績も骨髄移植と遜色がなくなってきていることから、最近は骨髄移植よりもさい帯血移植を受ける患者さんが増えています。
以下は、厚生労働省のウェブサイトに公開されている「第51回厚生科学審議会疾病対策部会造血幹細胞移植委員会(資料)」の「 非血縁者間末梢血幹細胞移植の国際協力」(リンク先はPDF)から抜粋したグラフです。
横軸は年度(平成)で、縦軸は移植実施件数です。右端から三番目の平成27年に、さい帯血移植(赤)が骨髄移植(水色)を上回りました。その後も逆転したまま推移しています。
(なおご参考までに、さい帯血移植の実施件数が日本で一番多いのは虎の門病院です。日本で一番ということは世界で一番です。なぜなら、日本人と比べて体格の大きい西洋人の場合、さい帯血では量が足りないことが多く、骨髄移植が主流だからです。ですから、虎の門病院の血液内科部長の谷口修一先生が、世界のさい帯血移植を引っ張ってきたと言っても過言ではないと思います)
先日の記事でも書きましたが、白血病はもはや不治の病ではありません。その背景には、骨髄移植だけではなく、さい帯血移植という治療が1990年代前半に生まれ、その治療成績を向上すべく苦労を重ねてきた医師たちの努力があります。
競泳の池江璃花子選手の白血病のニュースがきっかけとなり、白血病や骨髄移植に対する関心が高まっているこの機会に、さい帯血移植のことも知ってもらえればとの思いで、この記事を書きました。
僕自身、さい帯血移植を受けていなければもうこの世にはいません。さい帯血移植の治療成績を向上させてきた医師のみなさん、そして実際にさい帯血を提供していただいたドナーであるお母さんとその赤ちゃんのお陰で、命がつながりました。
一つの命がこの世に誕生したとき、そのへその緒の血が、将来の白血病患者の命を救うことになるのです。
すばらしい命のリレーだと思いませんか?
そんなことを考えると、生命の神秘を感じるとともに、そのリレーで生かされている自分の命の奇跡を思わずにはいられません。
僕の命を未来につなげてくれたのは、関西地方のどこかにいるお母さんと、当時一歳で血液型A型の女の子です。直接お会いして感謝の気持ちを伝えることは叶いませんが、お二人に想いを馳せつつ、この記事を書きました。
この記事が、神秘的な命のリレーであるさい帯血移植を知っていただくきっかけになれば、うれしく思います。
【追記 2019年2月22日】
このブログ記事に関し、虎の門病院の先生と話した結果、以下の記事を書きました。さい帯血バンクや骨髄バンク以外にも、白血病患者を応援する方法があります。それは「献血」です。詳しくは以下の記事をご覧ください。
▼献血のお願い・白血病患者を応援するためにできること/予防接種再開|オーシャンブリッジ高山のブログ
【このブログの闘病記】
▼急性骨髄性白血病(2017年)
▼急性リンパ性白血病(リンパ芽球性リンパ腫)(2013年)
▼悪性脳腫瘍(グリオーマ)(2011年)
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【投稿者】nori 【コメント】コメント (0)
治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ(幻冬舎 税込1,188円)
脳腫瘍、悪性リンパ腫(白血病)を乗り越えた闘病記。
病院選び、治療法選択、医師との信頼関係の構築、セカンドオピニオンなどの考え方も。
高山知朗(のりあき):
1971年長野県伊那市生まれ。伊那北高校、早稲田大学 政治経済学部卒業。
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)戦略グループ、Web関連ベンチャーを経て(株)オーシャンブリッジ設立、代表取締役社長就任。現在、同社ファウンダー。横浜市在住。
2011年7月に脳腫瘍(グリオーマ)の摘出手術。後遺症で視野の左下1/4を失う。
2013年5月から悪性リンパ腫(B細胞性リンパ芽球性リンパ種/急性リンパ性白血病)の抗がん剤治療。合併症で帯状疱疹後神経痛も発症し、現在も激しい痛みと闘う。
2016年年9月、幻冬舎より「治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ」を出版。
2017年2月、3度目のがんである急性骨髄性白血病を発症、同年4月にさい帯血移植治療を受ける。
2020年3月、4度目のがんである大腸がんの腹腔鏡下手術を受ける。
現在は妻、娘とともに元気に暮らしている。
メール: nori.tkym[at]gmail.com
([at]は@に読み替えてください)
※病気や病院に関する個別のご相談については、まず「治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ」をお読みの上、ご連絡いただけますようお願いします。いただくご質問に対する回答の多くが、すでにこの本に書かれております。ご理解お願いします。
※いただいたご連絡の全てにご返事できるとは限りませんのでご理解ください。
※過去の記事も上記リンクからご覧いただけます。
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