自分の肝臓はあと何年持つのか?/造血幹細胞移植後の肝機能障害

先週、虎の門病院に行ってきました。
血液内科の湯淺先生の診察で、急性骨髄性白血病のフォローです。
虎の門病院の旧病棟と新病棟


前回の診察は1月23日。
ここ最近は大体1ヶ月おきだったのですが、2月から3月にかけて、食道静脈瘤での入院や、大腸がんの手術などがあったので、今回の湯淺先生の診察は、およそ2ヶ月半ぶりとなりました。

湯淺先生の診察にて

この日の診察では、血液検査の結果確認もそこそこに、食道静脈瘤の発症における、白血病の造血幹細胞移植の影響などを質問させていただきました。

食道静脈瘤の原因は肝硬変

まずは、食道静脈瘤の原因となった肝機能障害(肝硬変)と、急性骨髄性白血病の移植治療の関係についてお聞きしました。
以前、食道静脈瘤の記事でも書いたように、食道静脈瘤の原因は、肝硬変です。肝臓が硬くなることにより、肝臓への血流が滞り(門脈圧亢進症)、行き場を失った血液が食道の細い静脈に逆流して、瘤を作ります。
その静脈瘤が破裂してしまうと命に関わります。そのため、2月の入院では、食道静脈瘤硬化療法(EIS)により、内視鏡治療で静脈に硬化剤を注入して静脈瘤を固めました。

肝臓内科的に見た肝硬変の原因は?

ただ、食道静脈瘤は治療しましたが、その原因である肝硬変そのものは治療していません。つまり食道静脈瘤硬化療法(EIS)はあくまで対症療法であり、根治療法ではありません。
では、そもそもの原因である肝硬変の原因は、いったい何なのか。
食道静脈瘤の治療をしてくれた肝臓内科の先生たちは、以下の2つのいずれかではないかとのことでした。
(1) 急性骨髄性白血病のさい帯血移植による慢性GVHD(移植片対宿主病/免疫による拒絶反応)
(2) これまでの治療で使用した抗がん剤の副作用
ともに、急性骨髄性白血病のさい帯血移植治療に関わるものです。
そしてこのような原因で肝硬変になった場合、有効な治療がないとも言っていました。「治すには肝臓を取り替えるしかない」、と。
肝硬変に対する根本的な治療法がないのであれば、これからも移植による慢性GVHDが続いていくと、あるいはこれからも抗がん剤の副作用が残っていると、肝硬変はさらに悪化していく可能性があります。
そしていつか、肝機能障害が命に関わるレベルにまで悪化するかもしれません。
この日の湯淺先生の診察では、そのような問題意識から、造血幹細胞移植を専門とする血液内科の湯淺先生に、改めて、肝機能障害の原因を聞いてみました。

血液内科の湯淺先生の回答

以下、湯淺先生の回答です。
————————————————–
肝臓内科の先生の言う通り、高山さんの肝硬変については、移植のGVHDの可能性と、抗がん剤の副作用の可能性の両方があると思います。
でも、実際にそのどちらが原因なのかは分かりません。生検で肝臓の組織を採ってきて病理検査しても恐らく分かりません。

(1) 肝硬変の原因は移植のGVHD?

仮に肝硬変の主な原因がGVHDだとした場合、それを治すには、免疫抑制剤を使ってGVHDを抑えるという方法が考えられます。
高山さんは、急性骨髄性白血病のがん細胞が、二次がんであることと染色体異常があることの2つの予後不良因子があることから、抗がん剤だけでがん細胞を撲滅することは難しく、移植してきたさい帯血の免疫による抗腫瘍効果に期待する必要がありました。そのため、移植治療の入院中から、免疫抑制剤の使用は中止しました。
そしてここ数年は免疫抑制剤とは逆に、免疫賦活剤のベスタチンを使っています。GVHDが強く出たとしても、免疫ががん細胞を攻撃してくれて、再発を防いでくれることを優先したのです。
今回、GVHDを抑制することで、肝機能障害を治していこうとすると、免疫賦活剤のベスタチンはやめ、免疫抑制剤としてステロイドを使うという考え方があります。免疫を抑制することで、移植してきたさい帯血の免疫が肝臓を攻撃するのを抑えるのです。
しかし全体として見たときに、それが高山さんにとっていいことなのかはなんとも言えません。
がん細胞は体の中で毎日生まれています。健康な人であれば、免疫の力ががん細胞を攻撃し、やっつけています。何らかの理由で免疫の力が下がると、そのバランスが崩れ、免疫力よりもがん細胞が優勢となり、がんが発症します。
高山さんは、さい帯血移植から3年が経ちます。ここまでの3年間、再発せずに来ているのは、今の状態で、いい方向に免疫のバランスが取れているのだと思います。今飲んでいるベスタチンや痛み止めなどの薬の効果も含めて。
ここでGVHDを抑えるために、ベスタチンをやめ、ステロイドを始めると、高山さんの免疫のバランスが崩れて、がんが再発してしまうかもしれません。
また、高山さんは帯状疱疹後神経痛の痛み止めを含めて、10種類以上の薬を飲んでいます。この薬を減らして肝臓への負担を減らすという考え方もあります。
でも、ようやく移植から3年経ったところです。再発の可能性はまだまだあります。移植から5年経って、一般的な再発率が下がってくるまでは、ベスタチンを含めて、薬には手をつけないほうがいいように思います。

(2) 肝硬変の原因は抗がん剤の副作用?

続いて、肝硬変の原因が、抗がん剤の副作用だと考えた場合です。
高山さんは、さい帯血移植の前処置のときに、ブスルファンという抗がん剤を使っています。このブスルファンが、肝機能障害の副作用を強く起こすことが知られています。
しかも、ブスルファンは3年以上体内に残存すると言われていて、その間は肝臓への副作用は続きます。
一方、肝臓は再生能力が高いと言われていて、肝機能障害があっても機能が回復することが知られています。
ですから、移植から3年経ったということは、体内に残存していたブスルファンが消えてくる時期です。それにより肝臓への副作用が弱まってくると、肝臓が再生して機能を回復するかもしれません。
ただし、ブスルファンも本格的に移植で使われ出したのが2000年過ぎからで、まだ15年ほどしか臨床データがありません。その中でも、移植をして3年とか5年とか経過した患者さんの肝機能のデータは、まだ十分取れていません。
さらに言うと、高山さんのような予後不良のタイプの急性骨髄性白血病で、移植から3年を経過した患者さんの数自体が多くありません。
ですから、これからブスルファンの副作用が治まっていき、肝機能が回復してくるかどうかは何とも言えません。

肝機能障害に対する湯淺先生の考えを聞いて

以上が湯淺先生からの肝機能障害に対する説明でした。
ここまでの話を一通りお聞きして、
●GVHDを抑えるような薬の変更はやめよう。がんを再発させないことを最優先にしよう。薬の変更は、あと2年、移植後5年が経過するまではやめておこう。
●移植から3年経過したので、これから抗がん剤ブスルファンの副作用が治まっていき、肝機能が回復していってくれることを少しだけ期待しておこう。
ということを思いました。

肝機能障害で命を落とす可能性は?

最後に、重要な質問をしてみました。
それは、「今の僕の肝臓が、あと何年もつのか?」という質問です。
つまり、がんが再発したり新たに発症したりしなかったとしても、肝機能障害が原因で命を落とすようなことはないのか?ということです。
これに対する湯淺先生の解答は明確でした。

「ここ15年くらいの虎の門病院の移植患者さんで、肝臓が原因で亡くなった方はいません。自分が虎の門病院に来て、ここ15年ほどの移植患者さんのデータは把握していますが、自分が知る限りでは、肝臓の障害が原因で亡くなった方はいません。」

この湯淺先生の発言を聞いて、どれだけ安心したことでしょう。
食道静脈瘤での入院中も、大腸がんでの入院中も、それぞれの病気が気になっていたのは当然ですが、この肝臓の問題も非常に気になっていました。
その心配が、湯淺先生のおかげで一掃されました。
湯淺先生はさらにこう言ってくれました。

「娘さんの二十歳の誕生日まで、あと10年ですよね。高山さんは、少なくともその10年は乗り越えていけるのではないかと、自分としては考えています。

うれしいお言葉でした。病気に関する非常に細かい知識や洞察だけでなく、家族のことも思いやった言葉をくださって、うれしく温かい気持ちになりました。
いつも以上に深く頭を下げて、湯淺先生の診察室を後にしました。

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